遠衛 実仁

「入居年 1981年 退居年 1986年」

詳細

遠衛 実仁(とのえ さねひと、1950年2月11日 – 2016年2月13日)は日本の実業家。加賀遠衛家14代当主であり、温泉旅館「遠衛庵」元代表取締役。父は11代当主であり貴族院議員でもあった遠衛 惟仁、兄に12代当主遠衛 稀仁、弟に13代当主であり実業家の遠衛 幸仁。


【生涯】
《生い立ち》
1950年2月11日、加賀前田家の分家筋にあたる遠衛家の次男として石川県に生まれる。
遠衛家は貴族院にも列席する旧華族の伯爵家であったが、保有していた多くの農地と小作人を戦後の農地改革で失い、その代わりに温泉旅館を経営することで生計を立てていた。温泉旅館は幸いにして戦災の被害が小さく、終戦後すぐに経営を再開できたという僥倖に恵まれる。
そんな中四つ上の兄である稀仁が病弱であったこともあり、兄と共に幼少期から遠衛家の跡取りとしての教育を施される。しかし性格はそれほど真面目ではなく、また旧家の跡取りというものにあまり興味を持たない、奔放な少年時代を送る。

《兄の死、そして出奔》
1965年、地元の中学校を卒業すると同時に父である惟仁が病によって倒れ、すでに若旦那となっていた兄稀仁が当主を継ぐ。大学への進学は考えておらず兄と共に温泉旅館を経営するつもりだった実仁ではあったが、しかしその兄である稀仁も1968年、実仁が高等学校を卒業するころに持病が急激に悪化し、やがて遺書を残す間もなく22歳という若さで早逝してしまう。
思わぬ速さで当主の座が巡ってきた実仁であったが、これが機とばかりに遠衛家の分家筋や親戚一同が財産の分与のため接触してきたため、嫌気がさした実仁は当主の座を弟の幸仁へと押し付ける形で譲り遠衛家と義絶、そして出奔する。
この時実仁が持って行った荷物は小さな鞄にいくつかの着替えと数冊の本、そして現金2000円(現在の価値で約1万円)だったという。

《東京大学文学部》
出奔して上京した実仁であったが、特に宛てがあるわけでもなく、日銭を稼ぎながら安宿に暮らす日々を一年ほど過ごす。だがそんな生活のために出奔したわけではないと一念発起し浪人という形で苦学に励む。
そして1970年、20歳の時に東京大学文学部へと入学する。
入学後は生来の不真面目さゆえか「可」でぎりぎり単位を得る講義も多かったが、幼少期よりの跡取り教育の甲斐もありカリスマとリーダーシップがあり、周囲の人間に慕われたこともあって不思議と助けたくなるような人物だったという。

《佐藤正貿易に入社》
1974年、東京の総合商社佐藤正貿易に営業として入社する。
実仁は入社時から頭角を現し、同期の中では一足飛ばしで業績を伸ばし、当時上司であった営業部長井上 平助(現・佐藤正貿易取締役会長)から非常に可愛がられた。
また同期入社であった鹿屋 宗像(現・佐藤正ホールディングスCEO)は、「二年浪人した人間とは思えないほどの自信に満ち、物覚えは良くなかったが要領は良く、最初から人と物を動かすことに慣れていた」と後に述べている。これらの自信や慣れもやはり、幼少期に受けた跡取り教育の賜物であるとされるが、当時佐藤正貿易では実仁が石川県の旧家である遠衛家の人間であるとは全く把握していなかったようである。
実仁は入社から二年で営業部流通係長へと昇進、さらにその二年後には営業部国際貿易課長へと昇進する。やがて1981年には前任者である井上 平助の昇進に際して空いた営業部長へと抜擢され、異例の速度で出世を遂げる。
なお一部の識者によるとこれは遠衛家の力によるものであるという説があるが、当時実仁と遠衛家の義絶状態は継続中であり、また佐藤正貿易に残る記録を見るとやはり実仁と遠衛家の関係を把握していたとは言えず、純粋に実力を買われてのものであるとされている。

《営業部長時代と佐藤正貿易退社》
営業部長に就任中、佐藤正貿易の対外営業成績は非常に高水準を維持し、それまでも十分に高水準と言われていた前営業部長時代と比べても110%から150%の前期収益比率を毎年計上していた。
しかし5年後の1986年、義絶していたはずの遠衛家から電報が届き、弟である幸仁が遠衛家当主と温泉旅館経営の激務に倒れ、昏睡状態に陥ったことを知る。
実仁は急遽営業のスケジュールを調整して石川県に帰郷し、実に18年ぶりに遠衛家の敷居を跨ぎ、そして自身が押し付けた当主と温泉旅館の経営によって憔悴しきった弟の姿を見る。当時会社との連絡役として同行した営業部長補佐の飯島 健治(現・佐藤正貿易営業総本部長)は、著書で以下のように回想している。

「遠衛部長のご実家は非常に大きかった。お屋敷といっても過言ではないだろう。聞けばなるほど、遠衛部長は温泉旅館を経営する旧華族のご出身らしい。後で知ったことだが、どうやらいろいろとご事情があり縁を切られていたとのこと。そのことを会社に聞くと、人事の諫早部長が目を丸くして、いま君から聞いたのが初耳だよ、と言ってらっしゃったのを覚えている。
果たして遠衛部長の帰郷に従った私だったが、お屋敷の門を潜り、敷居を跨いだところで丁寧に挨拶をして来られる仲居さんや女将さんの先導を受けてずんずんと突き進んでいく遠衛部長について行くことで精いっぱいだった。やがていくつもの廊下を曲がり、奥の奥にある擦りガラスの障子戸をがらり、と開けると、ゆきひとぉ、と今まで聞いたことがないような大声で遠衛部長は声を上げた。その先に居たのは遠衛部長と似た面影はある、しかし骨と皮だけのような、酷くやせ細った人物。どうも、彼が遠衛部長の弟さんというのは分かったのだが、どれほどの重責と、どれほどの激務をすればあのような痩せ方をするのか、私には皆目見当もつかなかった」
(出典:『佐藤正貿易のレジェンドたち』より 第三章 幻の社長「遠衛 実仁」から一部抜粋)

この時実仁は、目を覚ました弟から「ようやく帰ってきてくれました、兄上。俺は疲れました、本当に」と言われて佐藤正貿易の退社を決意した、と言われている[誰によって?]。
帰郷後、実仁は予定していた営業をキャンセルするとほとんどとんぼ返りで本社に戻り、その足で辞表を提出。役員総出での慰留があったもののこれを固辞し、佐藤正貿易を退社する。

《帰郷と復縁、そして14代当主に》
1986年、石川県に帰郷後直ちに遠衛家と復縁し、弟から当主の座を受け継ぐ。14代当主となった実仁は、傾いているとまでは言えないまでも決して健全とは言えなかった財政状況を立て直すために様々な施策を行っていく。
その代表例として地元周辺の温泉旅館と組合を作り、組合に属する旅館の宿泊客はほかの旅館の温泉にも無料で入浴できるなどの自分たちだけが得をするのではなく、より大きな規模での振興策を積極的に行っていく。また新聞広告やラジオ、テレビコマーシャルなどを利用した大規模な宣伝にも力をいれ、その結果「遠衛庵」だけでなく地域活性化にも繋がったとして後年、石川県知事から感謝状を受賞している。
その後、20年にわたって当主と「遠衛庵」の代表取締役をつつがなく務める。この間、「遠衛庵」の純利益は就任前と比べて780%増加しており、現在は「遠衛庵グループ」としてグループ企業となっている。

《晩年》
2006年、弟の長男である鉦仁へ15代当主を譲ると、その翌年には弟の次男で当主鉦仁の弟である通仁に「遠衛庵」代表取締役を譲り、経営から退く。以後悠々自適な隠居生活へと入り、その間佐藤正貿易の外部顧問に就任し、2016年に死去。享年66歳。
葬儀は家族葬のみ行われる予定だったが、「遠衛庵」の従業員よりも佐藤正貿易のかつての同僚や部下の強い希望により、現役役員でないにも関わらず佐藤正貿易で異例の社葬が行われた。


【人物】
・性格は大雑把で不真面目、しかし容量は良く頭の回転が良かったようである。
 ・その性格を表す逸話として、東京大学の試験では基本的に一夜漬けでしのぎ、しかし単位を落とすことはなかったというものがある。
 ・また人との会話ではその大雑把さや不真面目さが顔を出すことはなく、心配りを忘れない人物だった。

・金勘定にはかなり厳しく、東京大学在学中は講義の合間を縫って労働に励み、国立大学の比較的安価な学費とはいえ全てを自費で賄っていた。
 ・一度も借金を作って支払ったことはなく、また友人間で致し方なく数百円を借りることがあっても、翌日には必ず返済したという。
 ・「金は人生を狂わせるからな」というのが口癖だったという。

・国際貿易課長ではあったが、英語は全くしゃべれなかったという。
 ・取引に出向く際は通訳を連れず、単純な英単語と身振り手振りのみで意思を伝え、その上で成約に持っていくということをやってのけることがあったという。
 ・「商売はギブアンドテイクだよ。それが説明できれば、余計な修飾語はいらねえんだ」が理念だったという。

・退社後も佐藤正貿易の役員や同僚とは交流が続き、「遠衛庵」の経営が建て直された後は手紙のやり取りが多く交されたという。
 ・その関係は癒着と揶揄されるほど深い物であり、佐藤正貿易の人間が湯治に出かける時にはまず「遠衛庵」が選ばれたようである。

・営業部長に就任する際、住んでいたアパートが取り壊しになるという事で別のアパートへと引っ越した際、「実家に似ている」とよく周囲に零していた[要出典]。
 ・アパートの名前は不明だが庭に桜の木があったようで、その木が遠衛家の庭に植わっている桜とよく似ていたという[要出典]。
 ・毎年その桜の下で花見を開催していたようで、営業部の部下[誰?]によると、酒に酔った時は決まって、「故郷が酷く懐かしい。が、今更帰れんなあ。帰れんよなあ」と、泣きながら桜に語り掛けていたという[誰によって?]。



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